東京地方裁判所 平成5年(ワ)20944号 判決 1998年11月26日
東京都世田谷区等々力七丁目一七番二四号
原告
株式会社不二工機
右代表者代表取締役
横山隆吉
右訴訟代理人弁護士
山根祥利
同
原山邦章
右訴訟復代理人弁護士
近藤健太
右補佐人弁理士
鈴江武彦
同
坪井淳
同
中村誠
同
布施田勝正
名古屋市瑞穂区下坂町二丁目三六番地
被告
株式会社国盛化学
右代表者代表取締役
塩谷陽右
右訴訟代理人弁護士
奥村哲司
右補佐人弁理士
伊藤研一
主文
一 被告は、原告に対し、二九三〇万〇九六五円及びこれに対する平成九年九月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。
四 この判決のうち第一項は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 原告の請求
被告は、原告に対し、六五一一万三二五六円及びこれに対する平成九年九月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、原告が被告に対し、液体排出用のポンプについての実用新案権の侵害を理由として損害賠償(不法行為の後の日からの年五分の割合による遅延損害金の支払を含む。)を求めている事案である。
一 争いのない事実
1 原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有している。
実用新案登録番号 第一九八〇二〇八号
考案の名称 液体排出用のポンプ
出願年月日 昭和五八年四月四日
出願公告年月日 平成三年七月三〇日
登録年月日 平成五年八月二七日
2 本件実用新案権に係る明細書(補正後のもの。以下同じ。)の実用新案登録請求の範囲の記載は、次のとおりである。
「内面を漸次直径を増加する曲面となし、この曲面の小径側に吸込口を、大径側に吐出口を有するポンプ本体と、このポンプ本体の上部に設けたカバーと、前記曲面に接しないような間隙でポンプ本体内の上方よりの駆動軸で回転する羽根とを有し、前記カバーの羽根駆動軸の近傍に大気を流入させる気体流入部を設け、駆動軸のまわりの液体の回転運動によってポンプ本体内に等圧面が回転放物面で近似出来る自由表面を形成し、ポンプ内で回転する回転羽根は空気層即ち自由表面を形成出来る空隙を持つと共に、この空隙は気体流入部に連通されている構造の液体排出用のポンプ。」
3 本件考案の構成要件を分説すれば、次のとおりである(以下、各構成要件をその符号に従い「要件A」のように表記する。)。
A ポンプ本体の内面が漸次直径を増加する曲面として形成され、この曲面の小径側に吸込口を、大径側に吐出口を有する
B ポンプ本体の上部にカバーが設けられている
C ポンプ本体内面の曲面に接しないような間隙で、ポンプ本体内の上方よりの駆動軸で回転する羽根を有する
D カバーの羽根駆動軸の近傍に、大気を流入させる気体流入部が設けられている
E 駆動軸のまわりの液体の回転運動によって、ポンプ本体内に等圧面が回転放物面で近似できる自由表面を形成し、ポンプ内で回転する回転羽根は空気層即ち自由表面を形成出来る空隙を持つと共に、右空隙が気体流入部に連通されている
F 液体排出用のポンプ
4(一) 被告は、平成三年八月から平成八年一二月までの間に、別紙物件目録一記載の製品(以下「イ号物件」という。)を二万四〇二四台、同目録二記載の製品(以下「ロ号物件」という。)を一一万六一一八台、同目録三記載の製品(以下「ハ号物件」という。)を一万七三四五台、同目録四記載の製品(以下、平成四年一一月設計変更前のものを「ニの1号物件」、同年同月設計変更後のものを「ニの2号物件」といい、これらを合わせて「ニ号物件」という。)を四一万三五八一台、それぞれ製造・販売した(以下、イ号ないしニ号物件を「被告物件」と総称する。)。
(二) 右期間の被告物件の販売金額は、合計で五億八六〇一万九三〇六円を下回らない。
5 被告物件は、いずれも液体排出用のポンプであるかち要件Fを充足し、その各構成と本件考案とを対比すると、イ号ないしハ号物件はいずれも要件A、B及びCを、ニ号物件は要件Bを、それぞれ充足する。
6 本件考案及び被告物件はいずれも、ポンプ本体内に溜まり部分を有しないため、ポンプの作動を停止してもドレーンがポンプ本体内に留まることがなく、まだ、ポンプを再起動させた時にドレーン内の塵埃によって回転羽根が損傷されることもなく、安定した運転が確保されるという効果がある。
二 争点
1 イ号ないしハ号物件が本件考案の技術的範囲に属するか否か(イ号ないしハ号物件がそれぞれ要件D及びEを充足するか。)。
(原告の主張)
(一) 本件考案に係るポンプは、空調装置等のドレーンパンに溜まるドレーンのように、ドレーンが少量でその発生量が変動するような場合、特に有効な排出作用を行い得るポンプとして開発されたものである。その原理は、ポンプ本体内の残存空気のいかんにかかわらず、ドレーンがポンプ本体内において駆動軸を介して回転している羽根の先端に接することによって遠心力を付与され、ポンプ本体の内面(曲面)に沿って回転しながらポンプ本体の小径側(吸込口側)から大径側(吐出口側)に上昇し、ドレーンの回転運動によってドレーン層と空気層との間に回転放物面で近似できる自由表面が形成され、ポンプ最上端に達したドレーンが回転によって得られた速度成分を有して吐出口から排出されるというものである。回転する羽根は、ドレーンを攪拌してドレーンに遠心力を与え、その結果ポンプ本体の曲面に沿う回転運動を与えるためにあり、従来の完全密閉形の渦巻きポンプのように、羽根自体の汲み上げ作用によって液体が排出されるものではない。そして、本件考案に係るポンプは、自由表面において空気がドレーンと混合して気泡となり、ドレーンと共に排出されるが、この気泡に相当する空気を気体流入部から補給し、自由表面を形成・保持するという作用(自給作用)も有する。気体流入部からの空気の補給は、空気をドレーンと共に吐出しているときに行われるものであり、運転開始後から定常運転時に至るすべての状態において行われるものではなく、また、これによってポンプ機能を向上させるというものでもない。
(二) イ号ないしハ号物件は、いずれも回転羽根のボスと、ボスを挿通する貫通孔の外周面との間に、外気と連通する程度の大きさ(回転軸の回転を確保するためのみのクリアランスにとどまらず、ポンプ本体内に自由表面を形成するに十分な空気を流入できる大きさ)の間隙を有し、この間隙から大気が流入しており、要件Dを充足する。
(三) イ号ないしハ号物件は、いずれもポンプ本体と回転羽根の間に気体流入部である間隙に連通している空隙が形成され、この空隙により、駆動軸のまわりの液体の回転運動によってポンプ本体内に等圧面が回転放物面で近似できる自由表面が形成されており、要件Eを充足する。
(四) したがって、イ号ないしハ号物件は、いずれも本件考案の技術的範囲に属するものであり、イ号ないしハ号物件を製造・販売することは、本件実用新案権を侵害する行為に該当する。
(被告の主張)
(一) 従来公知の遠心ポンプが、運転開始後にポンプ本体内の空気を排出して揚水し、定常運転時にはポンプ本体内において空気の流出入がないか又は空気を流入させているのに対し、本件考案に係るポンプは、運転開始後に気体流入部からポンプ本体内に空気を流入させて所定の揚程を得、定常運転時には気体流入部から常に空気を流入させてポンプ機能を向上することを特有の作用効果としているものであり、ポンプ本体内に流入する空気がない場合には揚水するものではない。したがって、本件考案の技術的範囲は、運転開始時から定常運転時に至るすべての状態において空気を気体流入部からポンプ本体内に流入させて揚水する作用を有するものに限定される。
(二) イ号ないしハ号物件は、いずれも運転開始時に上面カバーの間隙からポンプ本体内の空気を排出しなければ揚程を得られず、定常運転時に大気に対する間隙の開放状態を保った場合には吐出流量が悪くなるものであり、他方、ポンプ本体内に空気の流入が起こり得ない真空状態下で運転した場合にも所定の揚程が得られており、本件考案と異なる揚水原理に基づくものである。
(三) したがって、イ号ないしハ号物件は、いずれも要件D及びEを充足せず、本件考案の技術的範囲に属するものではない。
2 ニ号物件が本件考案の技術的範囲に属するか否か(ニ号物件が要件A、C、D及びEを充足するか。)。
(原告の主張)
(一) ニ号物件は、ポンプ本体が、内面の直径が下方から上方に向かって徐々に増大した後にほぼ垂直に起立する曲面に形成され、該曲面の最小径端部に内部と連通する円筒部を有し、該円筒部の下端部に吸込口を有するとともに曲面の最大径側に吸込口より小径の吐出口を有しており、後記(五)のとおり、右の円筒部は付加的部分にすぎないから、要件Aを充足する。
(二) ニ号物件は、回転羽根が、貫通孔を挿通する電動モーターの回転軸に挿嵌されるボスの下部に、側端が垂直に垂下した後にポンプ本体の曲面に沿って半径方向へ延出して垂下する四枚の羽根部(上部羽根部)を周方向へ等間隔に設けるとともに、直線状になる対角位置に位置する二枚の羽根部の下部に所定の方向へねじれながら垂下して円筒部内に挿通される湾曲羽根部を設けており、後記国のとおり、右の円筒部及び湾曲羽根部は付加的部分にすぎないから、要件Cを充足する。
(三) ニ号物件は、イ号ないしハ号物件と同様、回転羽根のボスとボスを挿通する貫通孔の外周面との間に外気と連通する程度の大きさの間隙を有し、この間隙から大気が流入しており、要件Dを充足する。
(四) ニ号物件は、イ号ないしハ号物件と同様、ポンプ本体と回転羽根の間に気体流入部である間隙に連通している空隙が形成され、この空隙により、駆動軸のまわりの液体の回転運動によってポンプ本体内に等圧面が回転放物面で近似できる自由表面が形成されており、要件Eを充足する。
(五) ニ号物件は、本件考案の構成要件以外の構成(円筒部及びその内部に位置する湾曲羽根部)を有するが、これはポンプ本体の小径側に有する吸込口部分に新たな機能を付与したにすぎず、本件考案の作用効果には何ら影響を及ぼさない付加的部分である。
(六) したがって、ニ号物件は、本件考案の技術的範囲に属するものであり、ニ号物件を製造・販売することは、本件実用新案権を侵害する行為に該当する。
(被告の主張)
(一) ニ号物件は、ポンプ本体上部が、内面の直径が下方から上方に向かって徐々に増大した後にほぼ垂直に起立する曲面に形成されるとともに、ポンプ本体下部が、該曲面の最小径端部に内部と連通する円筒形状に形成されており、要件Aを充足しない。
(二) ニ号物件は、回転羽根が、ポンプ本体上部の曲面に沿って半径方向へ延出する四枚の羽根部(上部羽根部)とポンプ本体下部の円筒に沿って垂下する湾曲羽根部とを一体にした形状で、ポンプ本体の曲面に沿う部分と沿わない部分とを一体形成されており、要件Cを充足しない。
(三) ニ号物件は、イ号ないしハ号物件と同様、運転開始時に上面カバーの間隙からポンプ本体内の空気を排出しなければ揚程を得られず、定常運転時に大気に対する間隙の開放状態を保った場合には吐出流量が悪くなるものであり、他方、ポンプ本体内に空気の流入が起こり得ない真空状態下で運転した場合にも所定の揚程が得られており、本件考案と異なる揚水原理に基づくものである。
また、本件考案に係るポンプは、上下方向に間隔をおいて設けられた吸込口から吐出口までドレーンを汲み上げる作用と汲み上げられたドレーンを吐出口から吐出させる作用を併せ有することを特徴とするところ、ニ号物件は、ポンプ本体円筒部内のドレーンを湾曲羽根部による推進力でポンプ本体上部内に汲み上げた後、ポンプ本体上部内で回転する上部羽根部によりドレーンに遠心力を与え、その速度水頭を圧力水頭に変換して吐出口から吐出させているものであり、そのドレーン汲み上げ作用は、回転する湾曲羽根部による推進力によるものであって、本件考案のドレーン汲み上げ作用と相違している。ニ号物件の上部羽根部は、ポンプ本体の吸込口からかなり上位に位置し、ドレーンパンに溜まったドレーンに接していないこと、ポンプ本体上部の曲面との間隙が大きいことからしても、単にドレーンを加圧して吐出させる機能を有しているにすぎず、ドレーン汲み上げ作用を備えていない。ニ号物件は、汲み上げ作用と吐出作用を湾曲羽根部と上部羽根部とに別々に分担させることによって、高いポンプ機能を達成しながらポンプの小型化を図ったものである。
さらに、要件Eに係る「自由表面」は、揚水時にポンプ本体内に形成されるすべての自由表面を意味するものではなく、「駆動軸のまわり」という場所的な限定がされるとともに、「ポンプ本体内に等圧面が回転放物面で近似できる」という形状的な限定がされた特殊な「自由表面」を意味すろところ、ニ号物件においては、揚水時にポンプ本体内にこのような自由表面は形成されない。
したがって、ニ号物件は、本件考案と技術的に全く異なるものであり、要件D及びEを充足しない。
(四) 以上のように、ニ号物件は、本件考案の技術的範囲に属するものではなく、また、本件考案に円筒部及び湾曲羽根部という新たな構成が付加され、本件考案との同一性が失われているものであるから、本件考案を利用するものでもない。
3 原告の損害額
(原告の主張)
(一) 被告は、平成三年八月から平成八年一二月までの間に被告物件を製造販売したが、その製造原価及び管理費の総額、すなわち販売価格から利益を差し引いた金額は、合計で五億八六〇一万九三〇六円である(被告作成のポンプ価格推移表(乙第四八号証の一ないし四、第五一号証の一ないし八、九の1、2、一〇ないし二四)に記載された「運賃・梱包」なる項目は、それが「管理費」と別に計上されるべきものではないこと、被告物件とその他の商品とを区別して一個当たりの運賃・梱包費を算定することが実際上困難であること、運賃・梱包費それ自体として余りに高額であったり、極端な金額の変動があること(乙第五一号証の二三参照)、逆に「運賃・梱包」欄の金額が一定のものでも、他の項目の金額に極端な変動があり、開示された金額自体の信憑性に疑問があることなどからすれば、利益調整のために計上された費目といわざるを得ず、本来利益とみなされるものである。また、右ポンプ価格推移表の「利益」欄に記載されている金額についても、その一部に管理費となるものが含まれていると考えられる。したがって、右ポンプ価格推移表の「生産金額」欄に記載されている合計五億八六〇一万九三〇六円は、製造原価及び管理費の総額を示すものと考えられる。)。
(二) 被告の利益率は、一○パーセントを下らない。
利益率、すなわち製造原価、管理費及び利益の総額に占める利益額の割合が一〇パーセントであるとすれば、製造原価及び管理費の総額の九分の一が利益額となる。そうすると、被告が本件実用新案権の侵害行為によって得た利益の額は、少なくとも六五一一万三二五六円である(販売金額は、少なくとも六億五一一三万二五六二円である。)。
(三) したがって、被告の本件実用新案権の侵害行為によって原告が被った損害の額は、六五一一万三二五六円である。
(四) 被告は、ニ号物件における本件考案の寄与割合が二五パーセントを上回るものではない旨を主張するが、ニ号物件がドレーンポンプとして機能しているのは、本件考案を利用していることによるものであるから、被告の右主張は成り立たない。
(被告の主張)
平成三年八月から平成八年一二月までの間の被告物件の販売金額は、合計五億八六〇一万九三〇六円である(被告においては、被告物件の販売価格の算出に当たり、実際に支出される運賃・梱包費に基づいて、「運賃・梱包」費を「管理費」とは別に計上している。また、製品の出荷形態によっては、運賃・梱包費の金額が高くなったり、変動したりするものである。さらに、被告物件の販売価格は、「Assy加工」費や「割り掛け費」によっても変動するものである。)。
また、被告の利益率は、三パーセントを下回っている。
さらに、仮にニ号物件について本件実用新案権侵害が認められたとしても、ニ号物件における本件考案の寄与割合は、二五パーセントを上回るものではない。
したがって、仮に被告に本件実用新案権の侵害行為があったとしても、これによって原告に生じた損害の額は、原告主張のとおりではない。
第三 当裁判所の判断
一 本件考案の原理、効果・作用
1 甲第二号証ないし第四号証、第五号証の一ないし九、乙第三号証ないし第七号証、第一七号証の一及び二、第一八号証、第二四号証の一及び二、第二六号証、第三九号証、第四三号証並びに弁論の全趣旨によれば、本件考案に係るポンプは、ポンプ本体内の残存空気のいかんにかかわらず、ドレーンがポンプ本体内において駆動軸を介して回転している羽根の先端に接することによって遠心力を付与され、ポンプ本体の内面(曲面)に沿って回転しながらポンプ本体の小径側(吸込口側)から大径側(吐出口側)に上昇し、ドレーンの回転運動によってドレーン層と空気層との間に自由表面が形成され、ポンプ最上端に達したドレーンが回転によって得られた速度成分を有して吐出口から排出されるという原理に基づき、揚水する効果を有し、ドレーンの排出中、自由表面においてドレーンと混合して気泡となって排出された空気を気体流入部から補給し、自由表面を形成・保持するという作用(自給作用)を有するものであることが認められる。
2 なお、被告は、本件考案に係るポンプについて、ポンプ本体内に流入する空気がない場合には揚水するものではなく、運転開始時から定常運転時に至るすべての状態において、空気を気体流入部からポンプ本体内に流入させるものである旨を主張する。しかし、本件考案においては、運転開始直後は、まだ、空気の一部が気泡となってドレーンと共に吐出されていないので、気体流入部から空気が流入することはないものであって、本件考案は、ドレーンポンプの通常の定常運転状況下において、気体流入部から空気をポンプ本体内に流入させて排出するポンプであり、被告の主張するような運転開始直後から空気を流入させるものではない。本件実用新案権に係る明細書の「考案の詳細な説明」欄(実用新案公報〔甲第二号証〕三欄三行ないし七行)にも「羽根15が回転すると自由表面の境界で液と空気が混じり、空気の一部は気泡となってドレーンと共に吐出される。このため所定の自由表面即ち揚程を得るためには常に気体流入部からの空気の補給が必要である。」と記載されているものであって、定常運転時にポンプ本体内に空気を流入させることを意味するにとどまり、運転開始時から定常運転時に至るすべての状態において空気をポンプ本体内に流入させなければならないことを示すものではない。また、他に、明細書上、本件考案につき被告主張のように解すべき点も見当たらない。
また、被告は、本件考案に係るポンプについて、定常運転時に気体流入部から空気を流入させてポンプ機能を向上することを特有の作用効果としているものである旨を主張するが、本件実用新案権に係る明細書の「考案の詳細な説明」欄(実用新案公報〔甲第二号証〕四欄二五行ないし二七行)には、「本件ポンプによる時は空気を吸込んでもポンプ機能を低下しないという特有の効果を有する。」と記載されているにとどまり、定常運転時に空気を流入させてポンプ機能を向上することを特有の作用効果としていることを示すものではなく、他に、明細書上、本件考案につき被告主張のように解すべき点も見当たらない。
二 争点1について
1 要件D・Eの意義
前記一1認定の本件考案に係るポンプの揚水原理、効果・作用に照らせば、要件Dにおける「気体流入部」の技術的意義は、ドレーンと混合して排出された空気をポンプ本体内に補給し、ポンプ本体内に自由表面を形成・保持するところにあるというべきである。また、要件Eについて、右認定の揚水原理等に、回転運動によって形成される自由表面の形状がポンプ本体内面の形状等に影響されて変化し得るものであることを併せ考えると、本件考案においては、回転運動によってポンプ本体内に形成される自由表面の形状に特有「の技術的意義があるものではなく、結局、要件Eの「等圧面が回転放物面で近似できる自由表面」とは、回転運動によって通常生ずべき自由表面の形状を示したにとどまり、その形状が回転放物面に厳密に近似することまでを要求する趣旨ではないというべきである。
2 要件Dの充足の有無
(一) イ号ないしハ号物件が、いずれも回転羽根のボスと、ボスを挿通する貫通孔の外周面との間に、外気と連通する程度の大きさの間隙を有することは、当事者間に争いがない。そこで、右各間隙がドレーンと混合して排出された空気に相当する量の外気をポンプ本体内に補給する作用を有するかどうかについて検討する。
(二) 本件実用新案権に係る明細書の「考案の詳細な説明」欄(実用新案公報〔甲第二号証〕四欄三二行ないし三四行)には、実施例についての説明として「気体流入部19は回転羽根15のボス部とカバー18との間の小間隙としても効果は変わらない。」との記載がある。
(三) 検証の結果によれば、イ号ないしハ号物件について、別紙「実験明細」記載のとおりの実験(以下「第一実験」という。)を実施したところ、その実験結果は、別紙「排水ポンプ実験結果<1>」記載のどおりであったこと、ハ号物件について、別紙「実験明細」第四2(3)<12>記載の手順終了後同<13>の手順を行う前に一〇秒間の時間をおいて第一実験と同様の実験(以下「第二実験」という。)を実施したところ、その実験結果は、別紙「排水ポンプ実験結果<2>」記載のとおりであったこと、イ号及びハ号物件について、別紙「実験明細」第四2(3)<12>記載の手順終了後同<13>の手順を行う前に一分間の時間をおいて第一実験と同様の実験(以下「第三実験」という。)を実施したところ、その実験結果は、別紙「排水ポンプ実験結果<3>」記載のとおりであったことが認められる。
(四) イ号物件は、第一実験において、検知管内の水柱がポンプ側に引き寄せられ、ビニールチューブを検知管に接続してから二〇秒後にポンプ側六五ミリメートルの位置で消失しており、空気が吸引されていることを示している。また、第三実験においては、水柱が九秒後にポンプ側六〇ミリメートル付近の位置に移動し、一〇秒後に同四〇ミリメートルの位置まで戻り、若干左右に動きながらその後は緩やかに同五〇ミリメートル付近の位置まで移動し、三〇秒後に同四〇ミリメートル付近の位置まで戻り、三四秒後に同三八ミリメートル付近の位置で消失しており、少なくとも九秒後までは空気が吸引されていることを示している。右実験結果によれば、イ号物件は、その間隙から空気が補給されているものと認められる。
ロ号物件は、第一実験において、検知管内の水柱がビニールチューブを検知管に接続してから一〇秒後にポンプ側六〇ミリメートルの位置まで引き寄せられ、その後一分経過までこの位置にとどまり、一分三五秒後に同七〇ミリメートルを超える位置で消失しており、少なくとも一〇秒後までは空気が吸引され、一分三五秒後には更に空気が吸引されていることを示している。右実験結果によれば、ロ号物件は、その間隙から空気が補給されているものと認められる。
ハ号物件は、第一実験において、検知管内の水柱がポンプ側に引き寄せられ、ビニールチューブを検知管に接続してから四秒後にポンプ側五〇ミリメートルの位置で消失し、第二実験においては、水柱がポンプ側に引き寄せられ、一分四秒後にポンプ側三〇ミリメートルの位置で消失しており、いずれも空気が吸引されていることを示している。また、第三実験においては、水柱が一分経過に至る間、振動しながらいったんポンプ側二〇ないし三〇ミリメートル付近の位置まで移動し、再び初期値付近に戻ることを二回繰り返し、二回目に戻った際には消失と円柱状態の再生を短時間のうちに三ないし四回繰り返し、その後再生した水柱が同二〇ミリメートル付近の位置に移動し、一分五秒後に同二〇ミリメートルの位置で消失しており、空気が吸引される傾向にあることを示している。右実験結果によれば、ハ号物件は、その間隙から空気が補給されているものと認められる。
(五) イ号物件ないしハ号物件は、右の実験において、検知管内の水柱が一定の場所にとどまっていたり、いったん基点方向に戻るなどの動きをしていたことも見受けられる。しかし、本件考案に係るポンプは、前記認定のとおり、ドレーンの排出中に空気を気体流入部から補給するものであるから、ドレーンの水位が吐出可能な位置にない等の理由で排水が一時的に停止されたときは、運転中であっても空気の吸入が停止されるものである。そうすると、本件考案に係るポンプについては、検知管内の水柱が一定の場所にとどまったり、空気の吸入が停止された状況下で吐出管内のドレーンがポンプ本体内に若干戻るなどの理由でポンプ本体内の空気の内圧が増し、水柱が基点方向に移動することは、十分に考えられるところである。また、前記認定の実験結果によれば、第三実験において、導管(銅管)の開通確保手続の後一分間の排水量が断続的であったり多少変化したりしている以上、空気の吸入量にも変化があったものと認められ、それが検知管内の水柱の動きに表われているとも考えられる。右の水柱の動きは、いずれもポンプ側に引き寄せられた位置でのものである以上、ポンプ本体内は負圧の状態になっていることは明らかであり、これをもって、イ号物件ないしハ号物件が間隙から空気を補給する作用を有することを認定する上で、妨げとなるものではない。
(六) なお、被告は、イ号ないしハ号物件の間隙が空気を補給する作用を有するかどうかを右実験方法により確認し得るものではない旨を主張するが、ドレーンパン内のドレーンの水位が高くなったとしてもそれはわずかなものであること、実験結果がチューブと検知管の接続のタイミングのいかんにかかわらず全体的に同じ傾向にあると考えられること、検知管内の水柱の消失位置が空気流入の有無を判断するにつき殊更重要であるとはいえないこと、イ号ないしハ号物件の間隙にはグリスが塗付されており、チューブと検知管との間も気密が確保されていると考えられることなどに照らせば、右実験の結果は十分信頼できるものであって、この点に関する被告の主張は失当である。
また、乙第二八号証には、イ号ないしハ号物件がいずれもポンプ本体内に空気の流入が起こり得ない真空状態下で運転した場合にも所定の揚程が得られた旨の記載があるが、ここでの問題は、空気との流通が可能な状態においてイ号ないしハ号物件の間隙が空気を補給する作用を有するかどうかであり、空気との流通が不可能な状態において生じた結果は、前記の認定に影響を及ぼすものではない。
(七) 以上の検討によれば、イ号ないしハ号物件の間隙は、いずれも空気をポンプ本体内に補給する作用を有し、要件Dにおける「気体流入部」に該当すると認められる。したがって、イ号ないしハ号物件は、要件Dを充足する。
3 要件Eの充足の有無
イ号ないしハ号物件が、いずれもポンプ本体内に逆三角平板形状の回転羽根を有すること、その回転羽根のボスと、ボスを挿通する貫通孔の外周面との間に、外気と連通する大きさの間隙を有することは、当事者間に争いがなく、ポンプ本体と回転羽根の間に空隙が形成され、これが間隙に連通している構造になっていることは、別紙物件目録一ないし三添付の図面(イ号ないしハ号物件の図面であることは争いがない。)から明らかである。また、イ号ないしハ号物件の右間隙が空気をポンプ本体内に補給する作用を有し、要件Dにおける「気体流入部」に該当することは、前判示のとおりである。これに乙第四二号証及び弁論の全趣旨を総合すれば、イ号ないしハ号物件は、いずれも回転羽根を回転させると駆動軸のまわりの液体の回転運動によってポンプ本体内に自由表面が形成されるものであると認められる。したがって、イ号ないしハ号物件は、いずれも要件Eを充足する。
4 小括
以上によれば、イ号ないしハ号物件は、いずれも本件考案の技術的範囲に属するものであると認められる。したがって、イ号ないしハ号物件を製造・販売することは、本件実用新案権を侵害する行為に該当する。
三 争点2について
1 ニ号物件については、(1)ポンプ本体が、内面の直径が下方から上方に向かって徐々に増大した後にほぼ垂直に起立する曲面に形成され、該曲面の最小径端部に内部と連通する円筒部を有し、該円筒部の下端部に吸込口を有すると共に曲面の最大径側に吸込口より小径の吐出口を有していること、(2)貫通孔を挿通する電動モーターの回転軸に挿嵌されるボスの下部に、側端が垂直に垂下した後にポンプ本体の曲面に沿って半径方向へ延出して垂下する四枚の羽根部(上部羽根部)を周方向へ等間隔に設けると共に、直線状になる対角位置に位置する二枚の羽根部の下部に所定の方向へねじれながら垂下して円筒部内に挿通される湾曲羽根部を設けた回転羽根を有していること、(3)その回転羽根のボスと、ボスを挿通する貫通孔の外周面との間に、外気と連通する大きさの間隙を有することは、当事者間に争いがなく、ポンプ本体と回転羽根の間に空隙が形成され、これが間隙に連通している構造になっていることは、別紙物件目録四に添付された図面(ニ号物件の図面であることは争いがない。)から明らかである。
2 要件Aの充足の有無
(一) ニ号物件は、そのポンプ本体下部に円筒部を有していることからすると、ポンプ本体の内面が漸次直径を増加する曲面として形成されているものと直ちに認めることはできない。
(二) しかしながら、甲第一一号証、乙第四〇号証及び第四二号証並びに弁論の全趣旨によれば、ニ号物件は、その上部羽根部を切除して湾曲羽根部のみとした場合、吐出口の存する高さまで揚水することはできないものの、上部羽根部の存する高さまでは十分に揚水し得る能力を有していること、他方、ポンプ本体下部及びその内部にある湾曲羽根部を切除してポンプ本体上部及び上部羽根部のみとした場合、ドレーンが上部羽根部に接すれば、残存部分だけでも切除口から揚水し、ドレーンを吐出口から排出できるものであること、ドレーンパンに吸込口以上の水位の水を入れて回転羽根を回転させた場合、ポンプ本体の上部及び下部のいずれにおいても、駆動軸のまわりの水の回転運動によって自由表面が形成されるものであること、ポンプ本体下部及び湾曲羽根部を切除したものについて、ドレーンパンに切除口以上の水位の水を入れて回転羽根を回転させた場合においても、水の回転運動によってポンプ本体上部内に自由表面が形成され、その形状は、ポンプ本体下部及び湾曲羽根部を切除しないものと、ほとんど相違しないことが認められる。
右認定の事実に前記一1認定の本件考案に係るポンプの揚水原理等を総合すれば、ニ号物件は、上部羽根部がポンプ本体の吸込口からかなり上位に位置し、ドレーンパンに溜まったドレーンに直に接していないものの、ドレーンパンに溜まったドレーンは、回転する湾曲羽根部に接することによって遠心力を付与されてポンプ本体下部の吸込口からポンプ本体上部まで上昇した後、回転する上部羽根部に接して更に吐出口まで上昇して排出されるものであり、ニ号物件は、ポンプ本体上部及び下部ともに本件考案と同じ揚水原理、効果・作用を有するものであって、ニ号物件のポンプ本体上部にポンプ本体下部の円筒部及び湾曲羽根部を付加したことによって、ポンプ本体上部の揚水原理、効果・作用が殊更に変化するものでもないことが認められる。したがって、ニ号物件のポンプ本体下部の円筒部及び湾曲羽根部は、ポンプ本体上部に対して、単に上部羽根部の存する位置まで揚水する機能を付加した部分にすぎないというべきであり、ニ号物件が本件考案の技術的範囲に属するか否かについては、ニ号物件のポンプ本体上部が本件考案の構成要件を充足するかどうかによって判断されるべきものである。被告は、ニ号物件について、本件考案に円筒部及び湾曲羽根部という新たな構成が付加されたことにより、本件考案との同一性が失われていると主張するが、被告の右主張が採用できないことは、右に説示したところに照らし、明らかである。
(三) ニ号物件については、ポンプ本体上部が、内面の直径が下方から上方に向かって徐々に増大した後にほぼ垂直に起立する曲面に形成されており、右のほぼ垂直に起立する曲面部分についても、別紙物件目録四に添付された図面によれば、直径が下方から上方に向かって増大する傾向にあるものと認められるから、ニ号物件は、ポンプ本体上部の内面が漸次直径を増加する曲面として形成されているものということができ、要件Aを充足する。
3 要件Cの意義及び同要件の充足の有無
(一) 要件Cにおける「ポンプ本体内面の曲面に接しないような間隙」は、その間隙の程度について特に限定が設けられているものではなく、前記一1認定の本件考案に係るポンプの揚水原理等に照らせば、回転羽根の回転によってドレーンが遠心力を付与されて回転し得る程度の間隙であれば足りるというべきである。
(二) 別紙物件目録四に添付された図面によれば、ニ号物件の上部羽根部は、ポンプ本体内面の曲面に接しないような間隙をもって形成されていることが認められる。そして、ドレーンパンに吸込口以上の水位の水を入れて回転羽根を回転させた場合においても、ポンプ本体下部及び湾曲羽根部を切除したものについて、ドレーンパンに切除口以上の水位の水を入れて回転羽根を回転させた場合においても、いずれも水の回転運動によってポンプ本体上部内に自由表面が形成されることは、前記認定のとおりである。
(三) したがって、ニ号物件は、上部羽根部がポンプ本体上部内面の曲面に接することなく、かつ、上部羽根部の回転によってドレーンを回転させ得る程度の間隙を有しているということができ、要件Cを充足する。
4 要件Dの充足の有無
(一) 前記のとおり、要件Dにおける「気体流入部」の技術的意義は、ドレーンと混合して排出された空気をポンプ本体内に補給し、ポンプ本体内に自由表面を形成・保持するところにある。
(二) 検証の結果によれば、ニ号物件について第一実験を実施したところ、その実験結果は、別紙「排水ポンプ実験結果<1>」記載のとおり、検知管内の水柱がゼニールチューブを検知管に接続してから一〇秒後にポンプ側六〇ミリメートルの位置まで引き寄せられ、三〇秒後には五〇ミリメートルの位置まで(ただし、排水はされていない。)、四五秒後には四五ミリメートルの位置まで戻り、消失したというものであったことが認められる。右実験結果は、少なくとも一○秒後までは空気が吸引されていることを示しており、ニ号物件の間隙は、空気をポンプ本体内に補給する作用を有するものと認められる。
(三) なお、検知管内の水柱が基点方向に戻る動きをしていたことについては、その際に排水がされていないことが認められる以上、これをもって間隙から空気を補給する作用を有することが否定されるものではないことは、イ号ないしハ号物件について説示したところと同様である。また、被告は、右の実験の方法について、ニ号物件の間隙が空気を補給する作用を有するかどうかについて確認し得るものではない旨を主張するが、これを採用することができないこと、乙第二八号証のニ号物件がポンプ本体内に空気の流入が起こり得ない真空状態下で運転した場合にも所定の揚程が得られた旨の記載が、その間隙が空気を補給する作用を有するかどうかの判断に影響を及ぼすものとはいえないことも、イ号ないしハ号物件について説示したところと同様である。
(四) 右認定の事実によれば、ニ号物件の間隙は、空気をポンプ本体内に補給する作用を有し、要件Dにおける「気体流入部」に該当すると認められる。したがって、ニ号物件は、要件Dを充足する。
5 要件Eの充足の有無
(一) 前記のとおり、要件Eの「等圧面が回転放物面で近似できる自由表面」とは、回転運動によって通常生ずべき自由表面の形状を示したにとどまり、その形状が回転放物面に厳密に近似することまでを要求する趣旨ではないというべきである。
なお、被告は、回転運動によってポンプ本体内に形成される自由表面について、「駆動軸のまわり」という場所的な限定がある旨を主張するが、本件実用新案権にかかる明細書の実用新案登録の範囲には自由表面について右のように限定する記載はなく、明細書上自由表面を被告主張のように限定して解すべき点は見当たらない。
(二) 甲第一一号証及び乙第四二号証に前記2(二)及び4(二)認定の事実を総合すれば、ニ号物件は、回転する羽根による駆動軸のまわりの液体の回転運動によって、ポンプ本体上部内に自由表面を形成することができる空隙を持ち、その自由表面の形状も回転放物面に近似しているものと認められるから、要件Eを充足するというべきである。
6 小括
以上によれば、ニ号物件は、本件考案の技術的範囲に属するものであると認められる。したがって、ニ号物件を製造・販売することは、本件実用新案権を侵害する行為に該当する。
四 争点3について
1 被告が平成三年八月から平成八年一二月までの間にイ号物件を二万四〇二四台、ロ号物件を一一万六一一八台、ハ号物件を一万七三四五台、ニ号物件を四一万三五八一台、それぞれ製造・販売したこと、右期間の被告物件の販売金額が合計で五億八六〇一万九三〇六円を下回るものでないことは、当事者間に争いがない。
2 原告は、右期間における被告物件の販売金総額が少なくとも六億五一一三万二五六二円であり、被告の利益率は一〇パーセントを下らないことから、被告が本件実用新案権の侵害によって得た利益の額は少なくとも六五一一万三二五六円であると主張する。
しかし、原告は、被告作成に係るポンプ価格推移表(乙第四八号証の一ないし四、第五一号証の一ないし八、九の1、2、一〇ないし二四)の記載につき、そこに「生産金額」として記載された金額は製造原価及び管理費の総額を示すものと主張し、これに利益額を加算したものが販売金総額であり、その一〇パーセントが利益額であると主張するところ、この点については、右価格推移表に記載された「運賃・梱包」欄の金額の信憑性に疑問があると指摘するだけであって、被告の販売金総額が右主張の額であることについて右以上に具体的な根拠を示すものではなく、被告の販売額に関する具体的間接事実も主張せず、被告の販売額を推認させる証拠の提出もしない。また、被告における利益率が右主張のようなものである点についても、何ら具体的な根拠を主張立証しない。
他方、被告は、右期間における被告物件の販売金総額は五億八六〇一万九三〇六円にとどまるものであって、被告の利益率は三パーセントを下回ると主張するが、被告提出に係る前記ポンプ価格推移表は、被告において内部文書を集計した結果であるとして本件訴訟に提出した文書であるところ、右価格推移表には集計結果が「管理費」、「運賃・梱包」、「利益」等の欄に記載されているだけであって、右各欄に記載された数値の集計に当たって基礎とした資料の名称や、各資料の作成時期、作成者、保管状況等については、何ら明らかにされていない上、具体的な基礎資料は全く証拠として提出されていない。
そうすると、原告及び被告の主張は、いずれも具体的根拠を示さず、客観的な証拠による裏付けを欠くものであって、採用することができないものであるところ、前記1記載の、被告による被告物件の販売の、販売期間、平均単価、販売数量、販売金額に、空調装置用ドレーンポンプという被告物件の性状から当然に認められる原材料、製造方法等や、空調装置用ドレーンポンプの需要状況、被告会社の規模など、本件訴訟に提出された全証拠により認められる諸般の事情を総合考慮すれば、当事者間に争いのない前記販売金額五億八六〇一万九三〇六円に五パーセントを乗じた二九三〇万〇九六五円をもって、被告が本件実用新案権の侵害によって得た利益の額と認めるのが相当であり、原告は右同額の損害を被ったものというべきである。
3 なお、被告は、ニ号物件における本件考案の寄与割合が二五パーセントを上回るものではない旨を主張するが、イ号ないしハ号物件と同様にニ号物件においても、本件考案に係る揚水原理を採用したことはポンプとしての中心的機能に関するものであって、右の点は需要者がポンプ製品を購入するかどうかを判断するに当たって最も強く関心を抱くところというべきであり、また、前判示のとおり、ニ号物件は、ポンプ本体上部及び下部ともに本件考案と同じ揚水原理、効果・作用を有するものであるから、被告の右主張は採用することができない。
五 以上によれば、原告の請求は、二九三〇万〇九六五円及びこれに対する平成九年九月一三日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
よって、主文のとおり判決する。
(口頭弁論の終結の日 平成一〇年八月二七日)
(裁判長裁判官 三村量一 裁判官 長谷川浩二 裁判官 中吉徹郎)
物件目録
一 イ号図面で示すように、液体排出用のポンプであって、以下の構成を備えている、品名「DP-300」と呼ばれるもの。
(a) 内面の直径が下方から上方に向かって徐々に増大した後にほぼ垂直に起立する曲面14に形成され、該曲面の最小径端に吸込口12を有すると共に曲面の最大径側に吸込口より小径の吐出口13を有したポンプ本体11と、
(b) ポンプ本体に対し、その上端開口を覆うように取り付けられ、中心部に電動モーターの回転軸16に挿嵌される回転羽根15のボスを、その外周面との間に外気と連通する大きさの間隙19を有して挿通する貫通孔を有すると共に上面にモーター取付け軸を有したほぼ円盤形状のカバー18と、
(c) カバーのモーター取付け軸に、回転軸の下部が貫通孔を挿通してポンプ本体内に位置するように取り付けられた電動モーターと、
(d) 貫通孔を挿通する電動モーターの回転軸に挿嵌されるボスの下部に、側端部がポンプ本体の曲面に沿って半径方向へ延出して垂下し、一方の側縁下部に回転方向へ突出する突部15a及び他方の側縁に切欠15bが設けられたほぼ逆三角平板形状の羽根部を一体形成した回転羽根15
によって構成されている。
イ号図面
<省略>
二 ロ号図面で示すように、液体排出用のポンプであって、以下の構成を備えている、品名「DP-600Ⅰ」と呼ばれるもの。
(a) 内面の直径が下方から上方に向かつて徐々に増大する曲面14に形成され、該曲面の最小径端に吸込口12を有すると共に曲面の最大径側に吸込口より小径の吐出口13を有したポンプ本体11と、
(b) ポンプ本体に対し、その上端開口を覆うように取り付けられ、中心部に電動モーターの回転軸16に挿嵌される回転羽根15のボスを、その外周面との間に外気と連通する大きさの間隙19を有して挿通する貫通孔を有すると共に上面が上方に湾曲し、かつモーター取付け軸を有したほぼ円盤形状のカバー18と、
(c) カバーのモーター取付け軸に、回転軸の下端部が貫通孔を挿通してポンプ本体内に位置するように取り付けられた電動モーターと、
(d) 貫通孔を挿通する電動モーターの回転軸に挿嵌されるボスの下部に、側縁が垂直に垂下した後にポンプ本体の曲面に沿つて垂下し、一方の側縁下部に回転方向へ突出する突部15a及び他方の側縁に切欠15bが設けられたほぼ逆三角平板形状の羽根部を一体形成した回転羽根15
によつて構成されている。
ロ号図面
<省略>
三 ハ号図面で示すように、液体排出用のポンプであって、以下の構成を備えている、品名「DP-600Ⅱ」と呼ばれるもの。
(a) 内面の直径が下方から上方に向かって徐々に増大する曲面14に形成され、該曲面の最小径端に吸込口12を有すると共に曲面の最大径側に吸込口より小径の吐出口13を有したポンプ本体11と、
(b) ポンプ本体に対し、その上端開口を覆うように取り付けられ、中心部に電動モーターの回転軸16に挿嵌される回転羽根15のボスを、その外周面との間に外気と連通する大きさの間隙19を有して挿通する貫通孔を有すると共に上面が上方に湾曲し、かつモーター取付け軸を有したほぼ円盤形状のカバー18と、
(c) カバーのモーター取付け軸に、回転軸の下端部が貫通孔を挿通してポンプ本体内に位置するように取り付けられた電動モーターと、
(d) 貫通孔を挿通する電動モーターの回転軸に挿嵌されるボスの下部に、側縁が垂直に垂下した後にポンプ本体の曲面に沿って垂下する四枚形状の羽根部を周方向へ等間隔に一体形成した回転羽根15
によって構成されている。
ハ号図面
<省略>
四 ニ号の1及びニ号の2図面で示すように、液体排出用のポンプであって、以下の構成を備えている、品名「DP-600Ⅲ」等と呼ばれるもの。
(a) 内面の直径が下方から上方に向かって徐々に増大した後にほぼ垂直に起立する曲面14に形成されると共に該曲面の最小径端部に内部と連通する円筒部11aを有し、該円筒部の下端部に吸込口12を有すると共に曲面の最大径側に吸込口より小径の吐出口13を有したポンプ本体11と、
(b) ポンプ本体に対し、その上端開口を覆うように取り付けられ、中心部に電動モーターの回転軸16に挿嵌される回転羽根15のボスを、その外周面との間に外気と連通する大きさの間隙19を有して挿通する貫通孔を有すると共に上面が上方に湾曲し、かつモーター取付け軸及び取付け壁を有したほぼ円盤形状のカバー18と、
(c) カバーのモーター取付け軸及び取付け壁に、回転軸の下端部が貫通孔を挿通してポンプ本体内に位置するように取り付けられた電動モーターと、
(d) 貫通孔を挿通する電動モーターの回転軸に挿嵌されるボスの下部に、側端部が垂直に垂下した後にポンプ本体の曲面に沿って半径方向へ延出して垂下する四枚の羽根部を周方向へ等間隔に設けると共に直線状になる対角位置に位置する二枚の羽根部の下部に所定の方向へ捩じれながら垂下して円筒部内に挿通される湾曲羽根部15aを設けた回転羽根15
によって構成されている。
ニ号の1図面
平成4年11月設計変更前のもの
<省略>
ニ号の2図面
平成4年11月設計変更後のもの
<省略>
実験明細
第一 実験の目的について
被告各号物件のカバーの間隙に水柱の入ったガラス管を接続し、排水時の水柱の動きを観察して、間隙からの空気の流入の有無を確認する。
第二 実験者
原告技術一部所属の従業員
第三 実験条件について
一 被実験対象物 被告イ号乃至ニ号物件(別紙図面1乃至4)
二 実験装置及び実験条件について
1 別紙図面5のとおり、
(1) 被実験対象物のカバーの間隙をリング(材質アクリル)とグリス(ダウコーニングアジア(株)製FS高真空用グリス)で閉鎖し、(※1)
(2) 軸近傍に内径1・5ミリメートル、外径2・0ミリメートル(いずれも実測値)の銅管を通し、(※1)
(3) その銅管の外気側に、内径4ミリメートル(実測値)のビニールチューブ(材質軟質ビニル)を接続する。(※2)
2 別紙図面6のとおり、
(1)<1> 被実験対象物に300ミリメートルの揚程に設定した吐出管(透明軟質ビニル)を圧入接続し、
<2> 上記ビニールチューブを圧力変化検知管に着脱できるようにする。
(2)<1> 上記圧力変化検知管は、長手方向のほぼ中心から両側に角度約1・5度(実測値)の上り勾配をつけた長さ20・3センチメートル、内径3・9ミリメートル、外径5・9ミリメートル(いずれも実測値)のガラス管に、
<2> 水とAEMパウダー(東和化工(株)製)とエタノールを所定の割合(重量比で10:1:1)で混合した液体を、長さ約5~8ミリメートルの水柱となるよう初期位置に静止させて設置する。(※3)
(3) 圧力変化検知管の下にスケールを設置して水柱の動きを測定できるようにする。
3 ドレンパンに毎分約35ミリリットルの割合で給水する給水装置を設置する。(※4)
4 ドレンパン底部から被実験対象物の吸込口までの間隔を約10ミリメートルに設定する。
5 電源は200ボルト50ヘルツとする。
※1
(1) リング形状の内外径、厚さの設計値は別紙図面7のとおり
(2) リングと銅管のポンプ本体への取り付け方法は、圧入し、瞬間接着剤で固定する。
(3) グリス塗布の方法は、シール部に埋め込み、さらに手塗りで盛りつける。
※2
銅管とビニール管の接続方法は、別紙図面8のとおり
※3
(1) 水とAEMパウダーとエタノールの混合方法は、フィルムケースにパウダー、エタノール、水の順で入れ、蓋をして手で振り、パウダーの残留がなくなるまで十分に攪拌する。
(2) 圧力変化検知管については下記のとおりの手順で水柱を設置する。(なお、圧力変化検知管は、予備として別に二台を用意しておく。)
<1> 圧力変化検知管のガラス管の内面に水滴がないことを確認する。水滴がある場合は、紙縒りで水滴を除去する。
<2> 注射器に入れた混合液をガラス管内に注入して水柱を形成する。
この時、気泡が混入したり水柱が分離した場合には、<1>からやり直す。
<3> 紙縒りをガラス管内に挿人して吸水し、水柱の長さを所定の長さ(約5~8mm)に調整する。
この時、水柱の長さが所定の長さにならなかった場合は、<1>からやり直す。
<4> ガラス管を左右に少し傾けて、管内の水柱がスムーズに動くことを確認する。
※4
(1) 吸水装置は別紙図面9のとおり〔給水タンクは医療用(医療用具承認番号02B第1340号)の1,000ミリリットルのものを使用〕
(2) 毎分約35ミリリットルの給水量は、別紙図面9のバルブ2を全開にし、同バルブ1で給水量を調整して、1分間の給水量(cc/分)をメスシリンダにて測定する。
第四 実験方法については、以下の手順により行う。
1 被実験対象物については以下の順序で実験を行う。
(1) 被告ハ号物件
(2) 被告イ号物件
(3) 被告ニ号物件
(4) 被告ロ号物件
2 被告ハ号物件について
(1) 事前確認手続き
<1> 電圧を測定器で確認する。
<2> 給水装置からメスシリンダに一分間給水して貯水量を測定し、給水量が毎分約35mlであることを確認する。
<3> 吸込口以上の水位(約5~10mm)に達するまでドレンパンに水を入れる。
(2) 気密性確認手続き
<4> クリップでビニールチューブを挟む(別紙図面10のとおり)。
<5> 電源を入れてポンプ羽根を回転させる。
<6> 通常のように揚程の上がらないことを確認する。
(3) 本実験
<7> クリップを外し、揚程の上がることを確認する。
〔<8> 通常のように揚程の上がらない場合は、注射器でビニールチューブに空気を注入して銅管の開通を確保する。〕
<9> 給水を開始する。
<10> 所定の揚程に達し、吐出管から排水されていることを確認する。
<11> 注射器でビニールチューブに空気を注入して、銅管の開通を確保する。
<12> 再度、所定の揚程に達し、吐出管から排水されていることを確認する。
<13> ビニールチューブを圧力変化検知管に接続する。
<14> 圧力変化検知管に接続して、10秒後、30秒後、1分後及び3分後の水柱の位置を測定する。
但し、水柱が圧力変化検知管のポンプ側端部に達した場合には、ビニールチューブ内に水柱が入るのを防ぐために、その時点で実験を終了する。
また、水柱が消失した場合には、その時点の水柱の位置と時間を記録する。
3 被告イ号物件について
被告ハ号物件の実験手順と同じであるが、<2>の手順から始める。
4 被告ニ号物件について
被告ハ号物件の実験手順と同じであるが、<2>の手順から始める。
5 被告ロ号物件について
被告ハ号物件の実験手順と同じであるが、<2>の手順から始める。
以上
図面1.イ号図面
<省略>
図面2.ロ号図面
<省略>
図面3.ハ号図面
<省略>
図面4.ニ号図面
<省略>
図面5.銅管取付け部詳細図
<省略>
図面6.実験装置
<省略>
図面7
<省略>
図面8
<省略>
図面9
<省略>
図面10
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
別紙 A
排水ポンプ実験結果<3>「備考」欄
※1 ハ号「備考」欄の記載
1分に至る間、振動しながら一旦-20mmないし-30mm付近に動き、再び初期値付近に戻ることを2回繰り返したが、2回目に戻った際、水柱は消失と円柱状態の再生を短時間のうちに3~4回繰り返し、その後再生した水柱は-20mm付近に移動し、1分5秒後に-20mmで消失した。
なお、導管の開通確保手続の後の1分の間、多少水量に変化はあるが常時排水されていた。
※2 イ号「備考」欄の記載
9秒後に-60mm付近に移動した後に10秒後に-40mmに戻り、若干左右に動きながらその後はゆるやかに-50mm付近まで移動した後、30秒後経過後に-40mm付近まで戻り、34秒後に-38mmで消失した。
なお、導管の開通確保手続の後の1分の間、断続的に排水されていた。